2011年2月26日土曜日

THE NORTHFACE purple label 「ダウンジャケット」



「ツイードなんて、買って直ぐ着るものじゃないよ。3年くらい軒下に干したり雨ざらしにして、くたびれた頃着るんだよ。」白洲次郎の言葉だ。白洲次郎とは、戦後日本の繁栄をその豪腕で支えた人物。ジーンズを初めて履いた日本人だったとか、あのマッカーサー元帥を叱り飛ばした唯一の日本人だったとか、彼の伝説には枚挙の暇がない。キ○タクや明石○さんまが憧れているなんて言う話も聞くし、奥さんとの新婚当初の夕食にカジュアルな服装で現れて「ネクタイもせずに失礼」とさらりと言ってのけるなど、とにかく洒脱な人だったようだ。ケンブリッジ大学を卒業し、見事なオックスブリッジ英語を操る人物だったという彼が、若い時にツイードの母国で培った、素材に対する正しい距離感が冒頭の台詞を裏打ちしている。実はそもそもツイードって、イギリスでは実用服の素材なのだ。

その、実用性にあふれたツイード素材のなかでも最高峰の“ハリスツイード”をガッツリ使用したのが、

今回ご紹介する「THE NORTHFACE purple label」のダウンジャケットだ。ここのアイテムのほとんどが、ほぼ限定モノと言っても良いほどのレア度であるなか、更に出色の入手困難ぶりを誇る(?)
このトリプルネーム(THE NORTHFACE×nanamica×Harris tweed)のダウンジャケットは、本当につくづく品のいいカジュアルアイテム。前回ご紹介したMSPCのバッグに使われたツイードは知性を表現していたが、このダウンジャケットでは育ちの良さと大人なカジュアル感を表現している。こんなことが可能なのも、ひとえにツイードの持つ表情の豊かさゆえだ。以前にご紹介したカナダグース同様、極地用のマスターピースアイテムを多数生み出してきたnorthfaceが、数多くの海外アウトドアブランドとのコラボレーション実績のあるジャパニーズブランド「nanamica」と共同で、「街着としての解釈を盛り込んだアウトドアウェア」を提案しているこのライン。ストリートからの支持はある意味で異常なほどの高さだ。英国発信らしいアンダーステートメント(奥ゆかしさ、抑制の利いた、とでも訳すのが良いだろうか。ブリティッシュトラッドには欠かせない概念だ)溢れる服地で、その気になれば氷点下4、5度あたりまでの対応が可能な機能性を包み込んでいる。これは決して本格的な極地や山岳仕様ではないが、そのかわり、この服の持っているトラッドとビビッドの絶妙のバランスは、この服が究極の街着仕様であることをあなたに教えてくれるはずだ。

物事の出自に明るいということは、時にそれ以上の価値を醸し出すものだ。大人なら世の中に詳しくなるのは必然だが、敢えてそれ以外のこと、例えば音楽や芸術、自動車やファッションのような必然でないものの出自に明るい人と出会ったとき、本当の豊かさについて考えさせられることがある。冒頭で白洲が言った言葉、実は世界的なデザイナーの三宅一生に向かっていった言葉だ。(白洲は晩年、三宅のファッションショーにモデルとして登場したこともある。)ファッションのプロとして世界に認められた若者に、その素材の出自に照らした本当の着方を諭す大人。そんな骨太のカッコいい大人になりたくて、わざわざ4年ぐらい前のモデルを探して探して買いました。これまでも数シーズンにわたって展開されてきたこのトリプルネームのダウンジャケット、マジックテープがスナップボタンになったり(ツイードの性質上、マジックテープだとちょっとね)と年々更にこなれてきています。来シーズンあたり、オックスブリッジな気品溢れるカジュアルを、あなたのワードローブにどうですか?